「自現」
「東京芸術大学芸術祭」/東京芸術大学、東京/1978年9月/ベニヤ板に和紙、水彩

学部4年次に「芸術祭」で発表した作品。 横長の薄いベニヤ板に半透明の和紙を貼った1枚を1単位として、表面に白のハッチング(雨降り描き)を絵の具が切れるまで施す。ハッチィングによって生じるグラテーションと、和紙を透かして見えるベニヤ板の木目が重なり、描かれた白い調子と背景のベニヤの色が互いに交替し合う。1単位を1日で仕上げ、1週間(7枚)ごとに少しづつずらしながらパネルにまとめ、さらにパネル7組を連続させて展示した。



「自現」
「Each one of 5」/神奈川県民ホール、神奈川/1979年6月/ベニヤ板に和紙、水彩

卒業制作として制作した作品を延長して全長16mにわたって展示。 手法としては前掲同様で、1単位となるベニヤ板は縦長となっており、それらを横に連続して繋いで展示している。白の水彩絵の具で施されたハッチィングは、畳の目のようにベニヤの幅で行きつ戻りつして繰り返されている。さらに作品全体を引いて眺めたときには、何日か毎、絵の具が濃くなる度に、水で薄めて描き続けることによって生じた大きなグラテーションが発現する。



「自現」
「個展」/Gアートギャラリー、東京/1980年10月/パネルにフレスコ

フレスコ*でパネルに制作された作品。画廊の壁面3面を取り囲むように10枚のパネルで構成された。この作品では、フレスコ特有の技法上の制約を画面構成上の必然性として、1枚のパネルが6日分に分割して仕上げられている。不定形に塗られた壁面区画(ジョルナータ)の縁に添って、テラ・ロッサ(土性の赤茶色)によるハッチィング(線描)が、色がつかなくなるまで繰り返される。こうした単純な作業の積み重ねの内に、砂漠の風紋のような、木目のような、有機的なグラテーションとリズムが現れる。

*フレスコはヨーロッパを中心に古代からルネサンス期の教会壁画などに用いられた壁画技法で、「フレスコ(伊):フレッシュ(英)=新鮮な」という名の通り、漆喰壁が生乾きの状態の内に顔料を水で溶いて描かれる。壁が乾くにつれて顔料は石灰質の中に封じ込められ、経年変化に強い堅牢な画面となるが、1日ごとに限られた面積「ジョルナータ(伊)=1日分の仕事」しか仕上げられないという技法上の制約をもつ。

「自現」
「Each one of 3」/東京芸術大学大学会館展示室、東京/1981年6月/パネルにフレスコ

前掲同様、フレスコでパネルに制作された。顔料はイエローオーカー(土性の黄色)。壁面区画(ジョルナータ)は縦方向に塗られ、画面の右から左に向かって拡張されていく。



「自現」
「個展」/田村画廊、東京/1982年6月/ベニヤ板に和紙、水彩

シナベニヤ板を下敷きに、半透明の和紙(雁皮紙)に水彩絵の具(白色)で点描が施してある。写真(上)は1枚づつの作品シリーズ。1枚ごとに紙の中心から点を打ち始め、渦巻き状に絵の具が途切れるまで描き続ける。絵の具が途切れた時点で新たに絵の具を補い、その点を中心に次の渦巻き(波紋)を描いていく。この繰り返しにより、中心をずらしながら画面上を渦巻きが「虫が這うように」移動して行くことになる。画面(和紙)の端までで1枚ごとに完結させたのが写真(上)のシリーズ。写真(下)は、渦巻きの移動に合わせて上下左右に画面(和紙)を繋いで展開させた作品である。



「自現」
「個展」/ギャラリー葉、東京/1983年6月/石膏に水彩

前掲同様の点描による作品だが、支持体に石膏を用いた。毎日一定量の石膏を流して出来た不定形の限定面に同様の点描を施し、渦巻き(波紋)が次々に移動していくことにより、画面(石膏)も増殖、拡張していく。すなわち、点描が残した軌跡と画面全体が同一の構造で出来上がっている。渦巻き及び石膏面が内側に回り込み逃げ場を失うことにより、一連の作業は一個の作品として完結することになる。展示においては、一つの作品において点描が終了した点の高さを、隣の作品における中心点の始まりの高さに設定して、一連の作品の連続性を確保し、壁面インスタレーションとして統一された。



「自現」
「個展」/ギャラリーLUNAMI、東京/1984年12月/紙、ポリエステル樹脂に油彩

前掲同様の手法によるが、限定面を形成する支持体に透明なポリエステル樹脂を用いることにより、点描、限定面ともに同一平面上の制約を逃れて、交差し重なり合うことが可能となった。



「自現」
「個展」/ときわ画廊、東京/1984年6月/セメント、砂、顔料/パネルにフレスコ

壁面にはフレスコによる平面作品、中央には7本のコンクリート列柱が展示され、画廊全体を使ったインスタレーションとなっている。コンクリート柱は、毎日一定量のセメントと赤色顔料を型枠の中に交互に流し込み、積層することによって作られている。観客は、平面において発現した時間の広がりと、立体における層の重なり(厚み)を、列柱の間を行き交うという空間体験を通じて環境として感受することになる。